セキュリティ

「入力した情報がAIの学習に使われるか」を公式ドキュメントで確認した

「入力した情報がAIの学習に使われるか」を公式ドキュメントで確認した

「AIに入力した情報が学習に使われる」——AI導入がセキュリティを理由に止まるとき、ほぼ必ずこの話が出ます。

ところが日本語の解説記事を読むと、書いてあることが微妙に食い違います。実際、この記事を書くために検索した際、「法人向けプランは既定で学習に使う」と真逆のことを書いた記事にも当たりました。

そこで、各社の公式ドキュメントを直接読んで確認しました。以下はそこから引用した内容です。

結論:主要な法人向けサービスは、既定では学習に使わない

判定 サービス 基盤モデルの学習に使うか 確認したソース
Microsoft Copilot 使わない Microsoft Learn 公式
Claude(商用製品) 既定では使わない(例外あり) Anthropic 公式
Gemini(Workspace) 許可なく使わない Google 公式
ChatGPT(法人向け) 使わないとされる 公式ページを直接確認できず

最後の行について補足します。OpenAIのプライバシー関連ページは自動アクセスを遮断しており、この記事の執筆時点で内容を直接確認できませんでした。広く報じられている内容と各種解説記事は「法人向けは学習に使わない」で一致していますが、ここだけはご自身で最新の利用規約を確認してください。他社と同じ扱いで並べるのは不正確だと判断しました。

Microsoft Copilot:明記されているが、条件がある

公式ドキュメントには次のように書かれています。

Microsoft Graph 経由でアクセスされるプロンプト、応答、データは、Microsoft Copilot で使用されているものを含め、基礎 LLM のトレーニングには使用されません。

ここは明確です。ただし、同じドキュメントに書かれている次の3点は、日本語の解説記事でほとんど触れられていません。

1. エージェント経由は別条件

エージェントを使用して Microsoft Copilot がより関連性の高い情報を提供できるようにしている場合は、エージェントのプライバシーに関する声明と利用規約をチェックして、organization のデータがどのように処理されるかを確認してください。

つまり「Copilotは安全」がそのままエージェントに適用されるわけではありません。サードパーティのエージェントを有効にする場合、そのエージェント側の条件を個別に確認する必要があります。管理者は許可するエージェントを選択できるので、ここは統制ポイントになります。

2. Anthropicモデルは EU データ境界から除外

サブプロセッサとして Anthropic が提供するモデルは、現在 EU データ境界から除外されています。

Copilotは内部で複数のモデルを使い分けており、どのモデルが使われるかでデータの所在が変わります。EU拠点を持つ企業には効いてくる条件です。

3. 不正使用監視はオプトアウト済み

Azure OpenAI では、コンテンツの人間によるレビューを含む不正使用の監視を利用できますが、Microsoft Copilot サービスはそれをオプトアウトしています。

これは安心材料です。人間がコンテンツを見るプロセスが、明示的に無効化されていると書かれています。

Claude:フィードバックボタンを押すと学習に使われうる

Anthropicの公式ドキュメントには、こう書かれています。

By default, we will not use your inputs or outputs from our commercial products to train our models.
(既定では、商用製品の入力・出力をモデルの学習に使用しません)

問題はこの後の例外です。

If you explicitly report feedback or bugs to us… we may use your chats and coding sessions to train our models.
(フィードバックやバグを明示的に報告した場合、チャットやコーディングセッションを学習に使用することがあります)

つまり回答の横にある 👍 / 👎 ボタンを押すと、そのやりとりが学習対象になり得ます。さらに、フィードバックデータは最大5年間保存されると記載されています。

規程を作っても、ボタン1つで例外に入る

社員は「役に立った」と思ったら気軽に👍を押します。その操作が何を意味するかを知らなければ、規程を作った意味がなくなります。しかもフィードバックデータは最大5年間保存されると記載されています。

なぜこれが日本語の解説記事に出てこないのか

推測になりますが、「学習に使うか/使わないか」の二択で書かれているからだと思います。条件付きの例外は表に収まらないので落ちる。

ただ実務では、この例外のほうが効きます。契約条件を確認して安心した会社ほど、利用者の操作で例外に入っていることに気づきません。「確認済み」というラベルが、かえって点検を止めてしまう。

管理者側で止められる

Team / Enterprise プランでは、組織設定で「Rate chats」を無効化してメンバーのフィードバック送信を制限できると明記されています。機密性の高い業務で使うなら、この設定は確認しておくべきです。

「学習に使われない」と説明して導入したのに、実際にはボタン1つで例外に入る。この差を埋めるのが規程と設定です。

Gemini(Google Workspace):保持期間が管理者依存

学習利用については明確です。

Your content is not human reviewed or otherwise used for Generative AI model training outside your domain
(コンテンツは人間によるレビューを受けず、ドメイン外での生成AIモデルの学習にも使用されません)

注目すべきは保持期間です。公式ドキュメントによれば、

対象 保持期間
Workspace内のGemini 90日〜無制限(管理者が決定)
Geminiアプリ 最大36ヶ月(管理者が制御)
Gemini Notebook セッション終了後は保持されない

「無制限」が選べる

既定のまま運用していると、社内のプロンプト履歴が延々と残り続ける構成になっている可能性があります。これは学習の話とは別の、監査とe-discoveryの論点です。

取引先から聞かれるのは、こちらの話

「御社は当社の資料をAIに入れていませんか」と照会が来たとき、「学習には使われません」だけでは答えになっていません。相手が知りたいのは、入れたのか・どこに残っているのか・誰が見られるのかです。

聞かれること 答えるために必要な情報
入力しているか 入力してよい情報の定義(規程 第5条相当)
学習に使われるか 契約プランと利用規約の該当箇所
どこに保存されるか 保持期間の設定値とリージョン
誰が見られるか 権限設定と管理者の範囲
誰が答えるのか 問い合わせ窓口の部署名

最後の行が抜けている会社が多いです。政府のガイドラインでは、AIを利用する側にも問い合わせ窓口の設置が求められています。聞かれてから探すことになります。

「学習に使われるか」の答えを、4サービスぶん確認しました

この記事で触れた評価ボタンの扱いを含め、4社中1社だけがフィードバックを学習利用の例外として規約に書いています。保存期間・保存先・人的レビューもあわせた表です。出典と確認日つき。

本当に確認すべきなのは、学習の話ではない

ここまで見てきたとおり、「学習に使われるか」は法人向けサービスではほぼ解決済みの論点です。にもかかわらず、多くの会社の議論はここで止まっています。

実際にリスクが残っているのは別の場所です。Microsoftのドキュメントには、こう書かれています。

Microsoft Copilot は、個々のユーザーが少なくとも表示アクセス許可を持っている組織データのみを表示します。SharePoint などの Microsoft 365 サービスで利用可能なアクセス許可モデルを使用して、適切なユーザーまたはグループが組織内の適切なコンテンツに適切にアクセスできるようにすることが重要です。

裏を返すと、権限設定が甘ければ、その甘さがそのままAIの回答に出ます。「リンクを知っている全員」で共有されたフォルダ、退職者のアクセス権が残ったサイト、終了プロジェクトの共有設定。これらはAIが作った穴ではなく、もともとあった穴です。

AIはそれを検索しやすくしただけです。

「学習に使われるか」で止まると、点検が始まらない

この論点は契約書とドキュメントを読めば終わります。自社では何も変えなくていい。だから議論しやすいのです。

一方、権限の棚卸しは自社にしかできず、手間もかかり、出てくる結果が気まずい(退職者のアクセス権が3年分残っている、など)。だから後回しになります。

議論しやすい論点と、実際に効く論点が一致していない。これが、セキュリティを理由にAI導入が止まる会社で起きていることです。

棚卸しで最初に見る3箇所

  1. 退職者・終了案件のアクセス権——残っていることが多い
  2. 「リンクを知っている全員」の共有——既定値がこれになっている場合がある
  3. 共有フォルダの中身——人事・与信・単価表が混ざっていないか

この3つを見るだけで、連携前に潰しておくべき穴のほとんどが見つかります。ツールを買う前にできる作業です。

確認する順番

1

契約しているプランの種別

個人向けと法人向けで扱いが違います。ここが法人向けでなければ、以降の確認をしても意味がありません。

2

フィードバック機能の扱い見落としやすい

Claudeなら組織設定の「Rate chats」。無効化できるかを確認し、できないなら規程で「押さない」と定めます。

3

データ保持期間の設定

Geminiは無制限が選べます。既定のままになっていないか確認してください。

4

エージェント・拡張機能の条件

本体の条件は適用されません。個別に確認が必要です。管理者が許可するものを選べる場合、そこが統制ポイントになります。

5

既存の権限設定を棚卸しするここが本命

1〜4は各社のドキュメントで確認できます。5だけは自社にしかできません。

そして5が、実際に最も問題が起きる場所です。1〜4を確認して安心したまま5を飛ばすと、権限設定の甘さがそのままAIの回答に出ます。

1〜4は読めば終わる。5だけが自社の作業で、しかも本命

自社だと何から手をつけるべきか、3分で分かります

権限の棚卸しが先か、規程の整備が先か。かんたんな設問に答えるだけで診断します。費用はかかりません。


この記事について:Microsoft Learn、Anthropic公式ヘルプ、Google Workspace管理者向けドキュメントを直接参照し、記載内容を引用しました。OpenAIのプライバシー関連ページは自動アクセスが遮断されており、執筆時点で直接確認できていません。各社とも条件の更新が速いため、契約前には必ず最新の規約をご自身でご確認ください。本記事は特定時点の記載に基づく整理であり、法的助言ではありません。