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AI事業者ガイドライン、AI利用者が読むべきは第5部と別添7だけ

AI事業者ガイドライン、AI利用者が読むべきは第5部と別添7だけ

社内でAI利用のルールを作ろうとすると、必ず「政府のガイドラインに沿っているか」を聞かれます。ところが実際に AI事業者ガイドライン を開くと、本編と別添で膨大な分量があり、どこを読めばいいのか分かりません。

結論から言うと、大半の会社が読むべきなのは、そのうちのごく一部だけです。公式資料を実際に読んで確認した内容を整理します。

まず、多くの解説記事が古い

調べていて最初に気づいたのがこれでした。現行版は第1.2版(令和8年3月31日)です。

解説記事を読む前に、版数を見る

検索して出てくる日本語の解説記事は、第1.0版や第1.1版を前提に書かれたものが多く残っています。版が上がっていることに触れていない記事も珍しくありません。参照するなら、まず版数を確認してください。

版数の確認は原典で

ガイドラインは総務省・経済産業省の掲載ページで公開されています。解説記事ではなく、掲載ページで最新版を確認してから読み始めてください。改定されると項目番号がずれることがあり、社内規程で条番号を引用している場合は影響します。

自社が「どの主体か」を先に確定させる

ガイドラインは、AIに関わる事業者を3つに分けています。定義は原文でこうです。

主体 定義(ガイドライン原文)
AI開発者 AIシステムを開発する事業者(AIを研究開発する事業者を含む)
AI提供者 AIシステムをアプリケーション、製品、既存のシステム、ビジネスプロセス等に組み込んだサービスとしてAI利用者、場合によっては業務外利用者に提供する事業者
AI利用者 事業活動において、AIシステム又はAIサービスを利用する事業者

ChatGPTやCopilotを業務で使っている会社は「AI利用者」です。自社でモデルを開発しているわけでも、AIを組み込んだサービスを外部に売っているわけでもないなら、開発者・提供者向けの記述は読む必要がありません。

ガイドラインが長く感じるのは、3主体すべての内容が入っているからです。自社に関係するのは3分の1以下です。

読む範囲はここまで絞れる

可否 部分 AI利用者にとって
AI開発者に関する事項 読まなくてよい
AI提供者に関する事項 読まなくてよい
第5部 AI利用者に関する事項 ここだけ読む
別添7 ワークシート(Excel) そのまま使える
10の共通の指針 規程の章立てに使う

通読しようとすると挫折する

「政府のガイドラインに沿っているか」と聞かれて全体を読み始めると、ほとんどが自社に関係ない記述です。先に主体を確定させてから開いてください。

AI利用者が求められていること(原文ベース)

ガイドラインの第5部が「AI利用者に関する事項」です。ここに挙げられている項目を、原文の記述で並べます。項目番号(U-2〜U-7)もガイドラインのものです。

安全性に関わるもの

  • AI提供者が定めた利用上の留意点を遵守して、AI提供者が設計において想定した範囲内で利用する
  • AIの出力について精度及びリスクの程度を理解し、様々なリスク要因を確認した上で利用する

入力データに関わるもの

  • 公平性が担保されたデータの入力を行い、プロンプトに含まれるバイアスに留意して、責任をもってAI出力結果の事業利用判断を行う
  • AIシステム・サービスへ個人情報を不適切に入力しないよう注意を払う
  • AIシステム・サービスに機密情報等を不適切に入力しないよう注意を払う
  • AI提供者によるセキュリティ上の留意点を遵守する

説明に関わるもの

  • 出力結果を事業判断に活用した際は、その結果を関連するステークホルダーに合理的な範囲で情報提供する
  • AIの出力結果を特定の個人又は集団に対する評価の参考とする場合は、人間による合理的な判断のもと、説明責任を果たす
  • 関連するステークホルダーからの問合せに対応する窓口を合理的な範囲で設置し、AI提供者とも連携の上説明及び要望の受付を行う

文書・規約に関わるもの

  • AI提供者から提供されたAIシステム・サービスについての文書を保管・活用する
  • AI提供者が定めたサービス規約を遵守する

ここから読み取れる、実務での意味

「想定した範囲内で利用する」が起点になっている

最初の項目が効いています。提供者が想定していない使い方をした場合、その責任は利用者側に寄るという構造です。

実務的には、利用規約と提供者のドキュメントを読んで、想定用途を把握しておく必要があります。そして次の項目——「文書を保管・活用する」——が対になっています。読むだけでなく、保管しておけと書かれています。

人事評価への利用が名指しされている

禁止ではなく「人間による判断と説明責任」

AIを参考情報として使うこと自体は否定されていません。求められているのは人間による合理的な判断と説明責任です。規程で「採用にAIを使ってはならない」と広く書くと、実際の運用と食い違って形骸化します。最終的な決定をAIに委ねないことに限定して書いてください。

「特定の個人又は集団に対する評価の参考とする場合」という記述は、採用選考や人事評価でのAI利用を想定したものと読めます。ここには「人間による合理的な判断のもと、説明責任を果たす」という条件が付いています。

AIの出力をそのまま評価に使う運用は、この時点でガイドラインから外れます。

問い合わせ窓口の設置が挙がっている

意外に見落とされる項目です。「窓口を合理的な範囲で設置し」と明記されています。取引先や顧客から「AIをどう使っているのか」と聞かれたときに、答える先が社内に無い状態は想定されていません。

チェックリストとワークシートが無料で公開されている

最も実務的な情報がこれです。ガイドラインの別添7に「チェックリスト・ワークシート」があり、経済産業省のサイトから無料でダウンロードできます。ワークシートはExcel形式です。

「生成AI 社内規定 サンプル」と検索して民間のテンプレートを探す前に、まずこれを見てください。政府が定義した項目に沿って自社の状況を埋める形式なので、後から「ガイドラインに準拠しているか」を説明する必要が出たときに、そのまま根拠になります。

別添の構成 内容
第5部関連 AI利用者向けの解説
別添7 チェックリスト・ワークシート(Excel)
別添8 主体横断的な仮想事例
別添9 海外ガイドライン等の参照先

10の「共通の指針」は、規程の目次に使える

ガイドラインは、全主体に共通する指針を10項目に整理しています。

  1. 人間中心
  2. 安全性
  3. 公平性
  4. プライバシー保護
  5. セキュリティ確保
  6. 透明性
  7. アカウンタビリティ
  8. 教育・リテラシー
  9. 公正競争確保
  10. イノベーション

この10項目を社内規程の章立てにそのまま使うと、「どの指針に対応する条項か」を説明できる構造になります。ゼロから章立てを考えるより速く、しかも監査や取引先への説明で強い。

ただし、中小企業が10項目すべてを厚く書く必要はありません。9)公正競争確保 や 10)イノベーション は、AI利用者の立場では該当する内容が薄くなります。実務上、規程として厚みが要るのは 4)プライバシー保護、5)セキュリティ確保、7)アカウンタビリティ、8)教育・リテラシー あたりです。

読む順番

1

自社が「AI利用者」であることを確認する最初に

ほとんどの会社はこれです。ここを確定させないと、関係のない記述を延々と読むことになります。

2

第5部だけを読む

開発者・提供者向けは飛ばして構いません。U-2〜U-7の項目が対象です。

3

別添7のワークシート(Excel)を落とす

無料で公開されています。自作するより速く、出所を説明できます。

4

10の共通の指針を、社内規程の章立てに使う

「どの指針に対応する条項か」を示せる構造になります。監査や取引先への説明で効きます。

5

厚く書くのは4・5・7・8だけ

プライバシー保護・セキュリティ確保・アカウンタビリティ・教育。他は1〜2行で足ります。

10項目すべてを厚く書こうとすると終わりません。公正競争確保とイノベーションは、AI利用者の立場では該当が薄くなります。

この順で進めれば実作業は数時間。全体を通読しようとすると挫折する

指針への対応を説明するとき、事実の側の裏づけが要ります

主要4サービスの学習利用・保存期間・保存先・人的レビューを、公式ドキュメントから確認して埋めた表です。出典URLと確認日を書いてあります。監査や取引先への説明にそのまま使えます。

この順で進めれば、実作業は数時間です。ガイドライン全体を通読しようとすると挫折します。


この記事について:経済産業省が公開している「AI事業者ガイドライン 第1.2版」(令和8年3月31日、総務省・経済産業省)の概要資料PDFを直接取得し、記載内容を引用しました。AI利用者の遵守事項(U-2〜U-7)および主体の定義は同版の記載に拠ります。改定されると項目番号がずれることがあるため、社内規程で番号を引用する場合は版数を明記してください。参照時は総務省・経済産業省の掲載ページで最新版をご確認ください。読む範囲の絞り込み(AI利用者は第5部と別添7)は、当社が実務向けに整理したものです。