AI導入支援会社に発注するとき、契約書のどこを見ればいいのか。これは判断材料が少ない領域です。前例が社内になく、比較記事にも載っていません。
ところが参考になるものが、意外な場所に公開されています。デジタル庁が出している「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」です。
行政向けの文書ですが、中身は「生成AIを外部から買うときに何を確認するか」そのものです。民間の発注にほぼそのまま読み替えられます。
参照しているのは 2026年6月12日 決定版
この記事はデジタル社会推進会議幹事会が2026年6月12日に決定した版(初版は2025年5月27日)を読んで書いています。以下で引用している調達・契約の観点は、この版で内容を確認したものです。
ガイドラインは改定されます。仕様書や契約書にそのまま落とす場合は、デジタル庁の掲載ページで最新版と施行時期を確認してからお使いください。
この文書の位置づけ
まず押さえておくべきなのは、これがNormative(遵守すべき内容を定めたドキュメント)として位置づけられていることです。参考資料ではなく、政府情報システムの調達で守るべきルールとして作られています。
つまり「AIを買うときに何を確認すべきか」を、国がルールとして整理したものです。民間企業がゼロから考えるより、これを叩き台にするほうが速い。
2つのチェックシートが用意されている
ガイドラインには別紙として2つのチェックシートが付いています。
| 別紙 | 名称 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 別紙3 | 調達チェックシート(生成AIシステム用) | 発注先を選ぶとき |
| 別紙4 | 契約チェックシート(生成AIシステム用) | 契約書を作るとき |
さらに調達チェックシートは、要求事項を「基本項目」と「任意追加項目(加点項目)」に分類しています。ガイドラインにはこう書かれています。
「基本項目」としている要求事項は、調達時に応募者に求める事項として盛り込むことを原則とする。「任意追加項目(加点項目)」としている要求事項は、必要に応じ考慮した方が良い観点であり、調達の評価項目の加点項目とすることを想定したものである。
必須と加点が分けられているのが実務的です。全部を要求すると応募できる会社がいなくなるので、必須は絞り、それ以外は加点で見る。民間の相見積もりでも同じ考え方が使えます。
調達時に見るべき7つの観点
調達チェックシートがどんな観点で作られているか、ガイドライン本文にそのまま列挙されています。
- 生成AIシステムの納入事業者のAIガバナンス
- 適切なインプット・アウトプットやデータの取扱い
- 偽誤情報の出力防止等を含む生成AIシステムやサービスの品質確保
- 生成AIシステム特有のリスクケース発生時の適切な対応確保
- 国民等が利用する場合の適切な取扱確保(生成AIによるアウトプットであることの表示等)
- 個人情報や知的財産の保護
- セキュリティや説明可能性の確保
民間企業に読み替えるとこうなります。
| 行政の観点 | 民間での聞き方 |
|---|---|
| 納入事業者のAIガバナンス | その会社自身が、AI利用のルールを持っているか |
| 偽誤情報の出力防止 | 誤答が出たときの検知と対処をどう設計するか |
| リスクケース発生時の対応確保 | 問題が起きたとき、誰が何日以内に何をするか |
| AIによる出力であることの表示 | 顧客向けに使う場合、AI利用を明示するか |
| 説明可能性の確保 | なぜその回答になったかを追えるか(出典表示) |
1番目が特に効きます。「AI導入を支援する会社が、自社ではAIの利用ルールを持っていない」ということが実際にあります。聞いてみる価値があります。
契約時に決めるべき5つの論点
より見落とされやすいのが契約チェックシートのほうです。ガイドラインには、こう整理されています。
- 生成AIシステムのインプットに係る権利帰属関係
- アウトプットに係る事業者の義務の範囲や知的財産権の帰属関係
- 生成AIシステム特有のリスクケース発生時の事業者の対応義務の範囲
- 期待品質の維持
- 環境への配慮等に係る事業者の対応義務の範囲
インプットの権利帰属
自社が入力したデータの権利がどうなるか、という論点です。普通のシステム開発の契約書には出てこない項目で、意識せずに契約すると曖昧なまま運用が始まります。
アウトプットの知的財産権の帰属
AIが生成した文章や資料の権利が誰のものか。ここも通常の契約書にはありません。社外に出す資料をAIで作る運用をするなら、先に決めておかないと後で揉めます。
「期待品質の維持」が入っている
個人的に最も実務的だと思うのがこれです。生成AIはモデルが更新されると挙動が変わります。導入時に検証した精度が、半年後も同じとは限りません。
「期待品質の維持」を契約の論点として立てているのは、この性質を踏まえてのことです。民間の契約でも、モデル更新時に誰が再検証するのかを決めておくべきです。
参照元も公開されている
これらのチェックシートは、既存の公開資料をもとに作られています。ガイドラインが挙げているのは次の3つです。
- AI事業者ガイドライン(総務省・経済産業省)
- AIセーフティに関する評価観点ガイド(AISI)——2026年6月12日決定版では第1.1版を参照しています
- AIの利用・開発に関する契約チェックリスト/AI・データの利用に関する契約ガイドライン(経済産業省)
最後のものは、契約書の条項を検討するときに直接使えます。「AI 契約 チェックリスト」で探すと民間のコンサル記事が出てきますが、経産省が出しているものがあります。
中小企業に関係する記述もある
ガイドラインには、公共調達の文脈でこう書かれています。
「デジタルマーケットプレイス」を活用することで、迅速な導入が実現できるほか、中小・スタートアップを含む多様な事業者が公共調達市場にアクセスしやすくなり、公正競争が加速する効果が期待できる
大手以外も選択肢に入れる仕組みが、国として用意されている
行政に納入する側の話ですが、逆に言えば発注側にとってはそういうことです。民間企業が発注先を大手に限定する理由も、実はあまりありません。国の調達ですら、規模ではなく観点で評価する枠組みを持っています。
実務での使い方
- 調達チェックシートの7観点を、相見積もりの質問リストにする——各社に同じことを聞けば比較できる
- 契約チェックシートの5論点を、契約書の確認項目にする——特にインプット・アウトプットの権利帰属
- 「基本項目」と「加点項目」に分ける考え方を持ち込む——全部必須にすると候補が消える
- 経産省の契約チェックリストを条項検討に使う
そのまま使える部分と、使えない部分がある
行政向けの文書です。「国民等が利用する場合の表示」などは、BtoBの社内利用には不要です。取捨選択は必要ですが、ゼロから質問リストを作るより圧倒的に速い。
民間で読み替えるときの対応表
| 判定 | ガイドラインの記述 | 民間での扱い |
|---|---|---|
| ○ | インプット・アウトプットの権利帰属 | そのまま使える。最重要 |
| ○ | データの保存期間と削除 | そのまま使える |
| ○ | 期待品質の維持 | そのまま使える。納品後の話 |
| ○ | 基本項目と加点項目に分ける考え方 | そのまま使える |
| △ | 調達手続きの公平性に関する記述 | 相見積もりの条件揃えとして読み替え |
| ✕ | 国民等が利用する場合の表示 | 社内利用には不要 |
| ✕ | 政府調達固有の手続き規定 | 不要 |
この記事について:デジタル庁「デジタル社会推進標準ガイドラインDS-920 行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」(2026年6月12日 デジタル社会推進会議幹事会決定)のPDFを取得し、本文の記載を引用しました。引用箇所は6.3.2「生成AIシステムの調達時の対応事項」および同節の脚注36・38です。ガイドラインは改定されるため、施行時期を含めデジタル庁の掲載ページで最新版をご確認ください。行政向けの文書を民間の発注に読み替える整理は当社が行ったもので、デジタル庁がそのような用途を想定して公開しているものではありません。読み替えの妥当性は自社の調達要件に照らしてご判断ください。
調達の観点に対応する、実際の条件を確認しました
学習利用・保存期間・保存先・人的レビュー・拡張機能の別条件。主要4サービスについて公式ドキュメントから確認した結果を、出典と確認日つきで表にしています。Word・Excel。
何を確認すべきか、自社の状況から整理できます
どこまでを外部に頼むかで、確認すべき項目が変わります。かんたんな設問に答えるだけで診断します。費用はかかりません。