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AI導入の稟議を通すために用意した資料の中身

AI導入の稟議を通すために用意した資料の中身

AI導入の稟議が「効果が読めない」で止まる——ほぼ例外なく起きます。

止まる理由ははっきりしていて、効果を売上で書こうとするからです。売上への貢献は根拠が弱く、必ず突っ込まれます。

この記事では、実際に通った稟議資料がどう構成されていたかを、書き方のレベルで扱います。

なぜ「効果が読めない」で止まるのか

売上で書くと、前提の議論に入れない

可否 書き方 返ってくる反応
売上が10%向上する見込み 「その根拠は?」で終わる
生産性が大幅に改善される 「大幅とは?」
競合が導入しているため 「うちに必要か?」
月◯時間 × ◯人 × 単価◯円 前提の議論に入れる

売上で書くと、そもそも議論が始まりません。根拠を問われて答えられず、「もう少し詰めて」で持ち帰りになる。次に出しても同じことが起きます。

決裁者が判断できない資料になっている

決裁者が知りたいのは3つです。いくらかかるか、何が返ってくるか、失敗したらどうなるか。

ところが多くの稟議資料は1つ目しか書いていません。2つ目は抽象的で、3つ目は書いていない。3つ目が無い資料は、決裁者から見ると「止められない提案」に見えます。だから止めます。

止まる資料の共通点

  • 効果が定性的(「効率化」「見える化」「属人化の解消」)
  • 比較対象が無く、金額の妥当性を判断できない
  • 全社導入の一括提案で、金額が大きい
  • 失敗したときにどうするかが書いていない

逆に言うと、この4つを裏返せば通ります。以下、順に見ていきます。

効果を「時間」で書く

時間なら前提を明示できる

対象業務の所要時間×人数×単価で書くと、前提が明示されるぶん議論が具体的になります。

対象業務:社内問い合わせへの対応(総務・情シス)
現状:1件あたり平均12分 × 月180件 = 月36時間
担当:2名(人件費単価 4,000円/時間で試算)
現状コスト:月144,000円
想定削減:40%削減で月57,600円 → 年間691,200円

この形なら、決裁者は「12分は長くないか」「180件は本当か」「40%の根拠は」と具体的に聞けます。聞かれるのは悪いことではありません。聞ける資料は通ります。

正確さより、検証可能であること

「この前提が違えば結果も違う」と言える形にする

重要なのは正確な数字を出すことではなく、前提が検証可能な形で書かれていることです。前提が見えていれば、決裁者は自分の感覚で補正できます。補正できる資料は判断できます。

逆に、精緻に見えるが前提が書かれていない数字は信用されません。「どこから出てきた数字か分からない」が最も危険な状態です。

時間の測り方

「12分」をどう出すか。ここで止まる人が多いのですが、精密な調査は要りません。

  1. 担当者3人に、直近1週間分を思い出してもらう——件数と体感時間
  2. 問い合わせの多い順に5種類挙げてもらう——ここが後で対象業務になる
  3. 1件だけ実測する——体感とのズレを確認するため

これで十分です。稟議に必要なのは桁が合っていることであって、小数点以下ではありません。

比較対象を置く

単独で出すと「高い」と言われる

金額を単独で提示すると、比較する先が無いので「高い」としか言えません。同じ課題を別の手段で解決した場合のコストを並べてください。

選択肢 初年度コスト 備考
何もしない 月144,000円が続く 年間1,728,000円の現状コスト
人を1人増やす 年間400万円〜 採用コスト・教育期間を含む
外注する 年間◯円 件数に比例して増える
AI導入 初期◯円+月◯円 件数が増えても比例しない

「何もしない」を1行目に置くのがコツです。現状維持にもコストがかかっていることを、数字で見せられます。

人を増やす案と並べる意味

人件費と比較すると、金額の桁が一気に相対化されます。年間400万円の採用と比べれば、初期300万円+月10万円は「検討に値する範囲」に入ります。

ただし「人を減らせます」とは書かないでください。現場の協力が得られなくなり、導入後に情報が出てこなくなります。「増やさずに済む」「本来やるべき仕事に時間を回せる」という書き方にしてください。

比較しない案も書いておく

あえて「AIでは解決しない部分」も書いてください。全部解決すると書いた資料は疑われます。

「判断を伴う問い合わせは引き続き人が対応する」「対象は定型的な5種類に限る」と範囲を明示すると、逆に信頼されます。できないことを書ける提案者は、できることの見積もりも信用されます。

稟議で必ず聞かれる4点に、答えを用意しました

学習に使われるか、どこに保存されるか、誰が見るか、いつ消えるか。主要4サービスについて公式ドキュメントから確認した結果を表にしています。そのまま添付できる Word・Excel、出典と確認日つき。

段階を切る

金額の大きさで止めさせない

いきなり全社導入の予算を出すと、金額の大きさだけで止まります。内容の議論に入る前に終わる。

1部署・3ヶ月・効果測定つきで切ると通りやすく、しかも実際の運用上も正しい進め方です。

段階 範囲 期間 次に進む条件
第1段階 1部署(◯名) 3ヶ月 対象業務の時間が◯%以上削減
第2段階 関連部署へ拡大 3ヶ月 利用が定着(週◯回以上の利用者が◯%)
第3段階 全社 —— ——

「次に進む条件」を書くことが重要です。これが無いと、第1段階が終わったあとにまた最初から議論することになります。

撤退の条件も書く

「やめる基準」がある提案のほうが通る

最初から全社に広げた場合、うまくいかなかったときに撤退の判断ができなくなります。投資額が大きいほど、止める判断が政治的に難しくなるからです。

段階を切るのは稟議のテクニックではなく、リスク管理そのものです。そして決裁者はそれを分かっています。

「3ヶ月時点で削減率が◯%に届かない場合は継続しない」と明記してください。止められる提案は、通ります。

測る指標を先に決める

効果測定つきで出す以上、何を測るかを稟議の時点で決めておく必要があります。

  • 対象業務の所要時間——稟議で使った数字と同じ測り方で
  • 件数——問い合わせが減ったのか、他に流れただけなのか
  • 利用者数——ただし利用率をKPIにはしない

利用率はログインすれば上がってしまうので、単独では意味を持ちません。所要時間と組にして見てください。

資料の構成

1枚にまとめる

稟議資料が10ページあると、読まれるのは1ページ目だけです。この順で1枚に収めてください。

1

現状のコスト

時間 × 人数 × 単価。前提を必ず併記します。ここが検証可能でないと、以降が全部読まれません。

2

選択肢の比較

何もしない/人を増やす/外注する/AI導入。「何もしない」を1行目に置きます。

3

段階と、次に進む条件

1部署・3ヶ月・効果測定つき。第2段階に進む条件を数字で書きます。

4

撤退の条件

「◯%に届かない場合は継続しない」。ここがある資料は通ります。

5

やらないことの明示

AIで解決しない範囲。全部解決すると書いた資料は疑われます。

詳細は別紙。1枚目でこの5つが分かれば判断できる

聞かれることを先に書いておく

決裁の場で必ず出る質問があります。資料の裏面か別紙に、先に答えを用意してください。

聞かれること 用意しておく答え
情報が外に漏れないか 契約プランと、学習利用・保持期間の記載箇所
誰が運用するのか 担当者と、その人の工数(月◯時間)
使われなかったらどうするか 撤退条件と、そこまでの支出額
他社はどうしているか 同規模・同業種の状況(分かる範囲で)
社内ルールは要るか 規程の整備計画(ひな形があるなら添付)

最後の行を用意しておくと通りやすくなります。「ルールも同時に整えます」と示せると、決裁者のリスク面の不安がかなり下がります。

持ち帰りになったときの動き方

一度で通らないことはあります。そのとき「何が足りなくて止まったか」を必ず聞いてください。

  • 金額——段階をさらに小さく切る
  • 効果の根拠——実測を1件足す
  • リスク——規程とチェックリストを添付する
  • 優先度——他の投資と並べて比較表にする

止まった理由によって、次に足すものが変わります。同じ資料をもう一度出しても結果は同じです。

自社ならどこから始めるべきか、3分で分かります

どの業務から手をつけると効果が出やすいか、かんたんな設問に答えるだけで診断します。稟議に書く「対象業務」を決める材料になります。費用はかかりません。

この記事について:稟議の通し方・金額の分け方は当社が現場で観測した傾向をまとめたもので、調査統計ではありません。承認プロセスは会社ごとに大きく異なるため、自社の決裁規程に読み替えてご利用ください。