Sansanには、社内の誰が・どこの会社の・誰と繋がっているかが蓄積されています。この情報をAIから引けるようにすると、営業の初動が明確に変わります。
ただし名刺データはそのままでは使いにくい特性を持っています。連携の前に押さえるべき点を整理します。
名刺データの3つの癖
| 癖 | 起きること |
|---|---|
| 時点情報である | 交換した瞬間の役職・部署のまま止まっている |
| 同一人物が複数枚ある | 転職・異動のたびに別レコードとして増える |
| 会社名の表記が揺れる | 「(株)」「株式会社」「Inc.」が混在する |
3年前の役職を、現在の役職として答える
「部長」と伝えられて訪問したら、すでに役員になっていた、あるいは退職していた——実際に起こります。名刺は交換した瞬間で止まった時点情報です。
回答に「いつの情報か」を必ず出す
「田中様(営業部長/2023年3月時点の名刺情報)」——この括弧があるかないかで、使えるか使えないかが決まります。
正確さより、不確かさが伝わる設計
時点を併記すれば、利用者は「古いかもしれない」と自分で判断できます。AI側が正確である必要はなく、どこまで信じてよいかが伝わればいい。
逆に時点を落とすと、利用者は確認しようがありません。名刺データを扱う設計で、ここが最も効きます。
名寄せをどこまでやるか
同じ人物の名刺が複数ある状態をどう扱うかは、設計で決める必要があります。
- 最新のみ返す——シンプル。ただし「前職での接点」が消える
- 全件返す——履歴が追えるが、回答が冗長になる
- 最新+履歴の要約——「現在はA社。以前はB社で接点あり」
「最新のみ」にすると、連携の価値が半減する
営業用途では3番目(最新+履歴の要約)が最も価値があります。転職先で再び接点を持てるかどうかは、Sansanを使う理由そのものだからです。
会社名の揺れは正規化しておく
「株式会社ABC」「(株)ABC」「ABC株式会社」が別会社として扱われると、「ABC社との接点」を聞いても一部しか返りません。
上位100社だけ揃えれば足りる
全件を正規化する必要はありません。取引の多い上位100社を先に揃えれば、実務上の困りごとはほぼ消えます。ロングテールの会社は、そもそも問い合わせが来ません。
APIキーは1ユーザーに紐づく
連携方法の話が抜けたまま設計に入ると、権限のところで戻されます。Sansan Open API の認証はAPIキーで、公式は取得範囲を次のように書いています。
そのユーザの権限内で情報を取得できます
— Sansan API ドキュメント
つまりキーを発行したユーザーの権限が、そのままAIの参照範囲になります。利用者ごとに範囲が変わるのではありません。
素直に組むと、全員が同じ範囲を見る構成になる
APIキーを1本発行してAIに持たせると、誰が質問しても、キーの持ち主が見られる範囲すべてが返ります。Sansanの権限設定で部署ごとに名刺を絞っている組織では、その設定がAI経由で無効になります。
名刺は個人情報です。ここは「後で権限を足す」が効かない箇所なので、キーを発行する前に決めてください。これは共通アカウント型と権限引き継ぎ型でいう前者にあたる構成です。利用者ごとに範囲を分けるなら、利用者分のキーを扱う設計が要ります。
組み合わせて初めて価値が出る
Sansan単体でも役に立ちますが、実際に効くのは他のデータと繋いだときです。
| 組み合わせ | 答えられるようになる問い |
|---|---|
| Sansan × メール | 「この会社と最後にやりとりしたのはいつ・誰か」 |
| Sansan × 案件管理 | 「この会社に過去いくらの提案をしたか」 |
| Sansan × 予定表 | 「直近で誰が訪問しているか」 |
二重アプローチを防ぐ
「社内で誰かが既に接触していないか」という営業の基本動作を自動化します。金額に換算しにくいが、実害の大きい問題を潰せます。
個人情報としての扱い
名刺は個人情報
AIの参照範囲に入れる際は、利用目的の範囲内であることを確認してください。個人情報保護法が定めているのは次の3点です。
- 第17条第1項:利用目的を
できる限り特定しなければならない
- 第18条第1項:本人の同意なく、特定した利用目的の
達成に必要な範囲を超えて
取り扱ってはならない - 第17条第2項:利用目的を変更する場合も、
変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲
を超えられない
実務上の論点は「AIに読ませることが、当初の利用目的の範囲内か」です。範囲外だと判断するなら利用目的の変更が必要で、その場合は本人への通知または公表が要ります(第21条第3項)。法務と一度確認しておくべき箇所です。
始めるときの順番
- 回答に「時点」を必ず併記する設計にする
- 上位100社の会社名表記を揃える
- 名寄せ方針を決める(推奨:最新+履歴の要約)
- メールか案件管理のどちらかと繋ぐ
- 利用目的の範囲を法務と確認する
1と5は連携前に必ず決める
後から変えると、すでに出回った回答の訂正が必要になります。時点の併記と、利用目的の範囲。この2つだけは実装前に確定させてください。
入力した個人情報を、誰が見うるかを確認しました
ChatGPT Business は、守秘義務を負う第三者委託先が不正・誤用のレビューのために閲覧しうると規約に書かれています。Enterprise は OpenAI の権限保有従業員のみ。主要4サービスの人的レビュー・保存期間・保存先を比較した表です。
この記事について:Sansan Open API の認証方式と取得範囲は Sansan API ドキュメントの記載に基づいています。個人情報保護法の条文は個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)に基づいています。具体的な適用可否は取得時の利用目的の書き方によって変わるため、本記事は判断の材料であって法的助言ではありません。「上位100社を揃えれば足りる」「3年前の役職を答える」といった記述は、現場で観測した傾向であって調査統計ではありません。