AI導入の効果を報告するとき、多くの会社が「利用率」を使います。全社員のうち何%が使ったか。分かりやすく、集計も簡単で、資料に載せやすい数字です。
ただしこの指標には、成果が出る前に達成が確定してしまうという性質があります。
全員が週1回ログインすれば100%になる
利用率100%を達成した会社を想像してください。全社員が週に一度ログインし、何かを聞いて、画面を閉じる。この状態で利用率は100%です。
では業務は速くなったでしょうか。1分も短くなっていないかもしれません。それでも数字の上では大成功です。
「で、何が良くなったの」
「利用率90%を達成しました」という報告に対して、経営層がこう聞き返す。この場面はとてもよく起きます。そして、そこで答えられないと次の予算が止まります。
件数を追う指標は全部同じ問題を持つ
利用率に限らず、行動の量を数える指標には共通の弱点があります。
- 質問した回数
- 研修の参加率
- 作成した資料の数
これらはすべて、やれば達成できます。成果が出たかどうかとは無関係に数字が伸びるので、施策が効いているかの判断材料になりません。
では何を見るか
見るべきは、その業務にかかっていた時間が実際に減ったかどうかです。ただし「全業務の時間」は測れないので、対象を絞ります。
| 指標 | 測り方 | 難易度 |
|---|---|---|
| 対象業務の所要時間 | 導入前後で同じ作業を計測 | 中 |
| 問い合わせ件数の変化 | 経理・情シスへの質問数を数える | 低 |
| 探しても見つからなかった率 | 利用者アンケートで聞く | 低 |
| 同じ質問の再発率 | 問い合わせ内容を分類する | 中 |
2行目が最も始めやすい
「経理に来る質問が月100件から40件に減った」は、誰にでも意味が伝わります。しかも集計は問い合わせ窓口の記録だけで済みます。所要時間の実測より手間が軽く、説得力は変わりません。
導入前に測っていないと比較できない
ここが最大の落とし穴です。効果を示したくなるのは導入から半年後ですが、そのとき比較対象がありません。
半年前に戻って測ることはできない
「たぶん減った気がする」では、稟議の振り返りになりません。導入前に測っていなければ、後から取り返す方法はありません。
測るのは1週間でいい
大がかりな計測は要りません。導入前の1週間だけ、対象業務について記録を取っておけば十分です。
- その作業が週に何回発生したか
- 1回あたり何分かかったか
- 誰がやったか
この3つがあれば、半年後に同じ1週間を測って比較できます。準備に必要なのは、始める前の1週間だけです。
利用率を見てはいけないわけではない
誤解のないように書いておくと、利用率が無意味なわけではありません。使われていなければ効果は絶対に出ないので、下限のチェックとしては機能します。
利用率が無意味なわけではない
使われていなければ効果は絶対に出ないので、下限のチェックとしては機能します。問題なのは、利用率を成果の指標として扱うことです。位置づけを分ければ両立します。
| 指標 | 役割 |
|---|---|
| 利用率 | 健康診断。低ければ何か問題がある |
| 業務時間の変化 | 成果。これで投資判断をする |
報告の形を先に決めておく
導入を決めた時点で、半年後にどういう報告をするかを書いておくと、必要な計測が自動的に決まります。
「経理への問い合わせが◯件から◯件になりました」という一文を先に作り、そこの数字を埋めるために何を測るかを逆算する。この順番だと、測り忘れが起きません。
何を測るべきか、自社の状況から決められます
どの業務を対象にするか、どの指標なら集計できるか。かんたんな設問に答えるだけで診断します。1週間の記録を始める前に見ておくと、測り忘れが減ります。費用はかかりません。
この記事について:利用率が指標として弱い理由と代替指標の提案は、当社が現場で用いている整理です。これらの指標を比較検証した調査ではありません。生成AI導入による労働時間削減については、参照できる公的な統計を見つけられなかったため、具体的な削減幅は書いていません。