試しに使ってみる期間は順調だったのに、本番導入の話になると止まる。この現象は非常に多く見られます。
止まる理由は技術的な問題ではないことがほとんどです。試す段階と本番で、評価している人が変わるのが原因です。
試す段階と本番では、聞かれることが違う
| 試す段階 | 本番導入 | |
|---|---|---|
| 評価する人 | 現場の担当者 | 経営層・情シス・経理 |
| 関心事 | 使えるか、便利か | いくらか、安全か、続くか |
| 判断基準 | 体感 | 数字と根拠 |
試す段階で「便利でした」という評価が集まっても、それは本番の判断材料になりません。経営層が知りたいのは、いくら払っていくら返ってくるかです。
「良かったです」は情報量がゼロ
試用後アンケート「業務が楽になった」9割
この結果を持って稟議に行くと、たいてい「具体的には?」で止まります。体感の集計は、判断する側にとって数字ではありません。
試用後のアンケートで「業務が楽になった」が9割——この結果を持って稟議に行くと、たいてい「具体的には?」で止まります。
止まる会社に共通する3つのこと
1. 前の状態を測っていない
最も多い原因です。試す前にその業務が何分かかっていたかを記録していないため、どれだけ短くなったかを言えません。
ここだけは遡れない
試用期間が終わってから測ろうとしても、比較対象が存在しません。始める前の1週間で記録しておく必要があります。
記録するのは3項目でいい
| 記録すること | やり方 | 所要 |
|---|---|---|
| 対象業務の件数 | 1週間、担当者に正の字で数えてもらう | 1日1分 |
| 1件あたりの所要時間 | 5件だけ実測。残りは体感で補う | 合計30分 |
| 誰がやっているか | 担当者名と、その人の他業務 | 10分 |
精密な調査は要りません。稟議に必要なのは桁が合っていることです。この3項目があれば、試用後に「◯分→◯分」と言えます。
2. うまくいった例しか集めていない
試用の報告は成功例で構成されがちです。ところが本番の判断をする側は、失敗した場面を知りたがります。「どういうときに使えなかったか」が分からないと、リスクを見積もれないからです。
失敗例を出すほうが、結果的に通る
「全部うまくいきました」は、逆に信用されません。試した範囲が狭いのではないか、と受け取られます。
使えなかった場面を先に出しておくと、議論が「やるか・やらないか」から「どの条件でやるか」に移ります。隠して後から出るより、はるかに軽く済みます。
記録しておく失敗の型
- 答えが出なかった質問——社内に情報が無いのか、探せなかったのか
- 間違った答えが出た質問——古い情報を拾ったのか、権限外を見たのか
- 使うのをやめた場面——手でやったほうが速かったケース
3つ目が最も価値があります。「AIを使わないほうがいい業務」が分かると、本番の適用範囲がそのまま決まります。
3. 試した範囲が狭すぎる
1部署5人で2週間試して「うまくいった」としても、全社200人で使ったときに同じ結果になるかは分かりません。特に、
- ITに強い人だけで試していないか
- 導入に前向きな人だけで試していないか
- 繁忙期を避けていないか
3番目が見落とされがち
暇な時期に試したものは、忙しい時期に使われるとは限りません。「時間があるから触ってみた」と「忙しいから使った」では、意味がまったく違います。
本番に進む会社がやっていること
逆に、スムーズに進む会社には共通した準備があります。
- 始める前に、対象業務の時間を1週間記録している
- 試す段階から、経理と情シスを巻き込んでいる
- うまくいかなかった場面を記録している
- 試用の目的を「使えるか」ではなく「どこまで使えるか」に置いている
2番目が効く
本番の判断をする部署が最初から関わっていれば、判断のタイミングで初めて説明する必要がありません。「聞いていない」で止まるパターンを避けられます。
4番目の意味
「使えるかどうか」を確かめる試用は、答えがだいたい「使える」になります。それでは判断材料が増えません。
「どの業務までなら使えて、どこからは無理か」を確かめる設計にすると、本番の適用範囲がそのまま決まります。報告書もそのまま稟議に使えます。
本番判断で聞かれる条件を、確認済みの形で用意しました
学習利用・保存期間・保存先・人的レビュー。試用の段階で情シス・法務に渡しておくと、本番判断が速くなります。主要4サービスを同じ項目で並べた表です。出典と確認日つき。
期間は3ヶ月を目安に
2週間では短すぎ、半年では判断が先送りになります。3ヶ月あれば、
- 最初の物珍しさが落ち着いた後の実利用が見える
- 月次の業務サイクルを2〜3回まわせる
- 繁忙期と通常期の両方に当たる可能性がある
という条件が揃います。「使い始めて2週間の熱」は本番の参考になりません。落ち着いた後にどれだけ使われているかを見てください。
まとめると
試す前に決めておくのは、この3つです。
- 何を測るか(前の状態を1週間記録する)
- 誰を巻き込むか(判断する部署を最初から)
- 何を確かめるか(使えるか、ではなく、どこまで使えるか)
試用が終わってからでは、どれも取り返せません。特に1つ目は物理的に遡れないので、始める前の1週間だけは確保してください。
何から試すべきかが決まっていないなら、先に整理できます
どの業務を対象にするか、何を測るか。かんたんな設問に答えるだけで診断します。試用の設計をする前に見ておくと、測り忘れが減ります。費用はかかりません。
この記事について:試用から本番に進む際の論点整理は、当社が現場で用いているものです。進んだ割合や止まった理由の内訳は測定していないため、数字は書いていません。